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2007/03/09 (Fri) 00:18
フルーツタルト vol.3

フルーツタルト
Vol.3 *Chapter 2. Early Summer Days*


fruit3.jpg

1.berry in the road in the early morning
 深夜勤のバイトから帰宅する頃には、もう空が白んできている。
 こういう生活をしていると逆に、「日の出が早くなったな」とか「朝方も暖かくなってきたな」なんて、季節の変化によく気がつく。特にミノルは写真を撮るから、そういう変化には敏感な方だった。
 今日は久しぶりに、バイトも専門学校も休みの日だ。そういう日は夜になると、ひょんな事から知り合った同じアパートに住むふたりが、ミノルの部屋にやってくる。地元の友達とも、同じ道を目指す専門の友達とも違う、ただ同じアパートに住んでるってだけの縁のふたりが、素人目ながらも率直に言ってくれるミノルの写真への感想は、変な利害やライバル意識もない分、良いアドヴァイスになったし、違う夢を追っている姿が刺激になることもよくあった。
 男女間に友情は存在し得ない、という人もいるけど、ミノルはそんなことはないと思う。現にそのふたりとの間には、友情らしきものが育っているのを感じるわけだから……
 部屋に帰り着くとミノルは早速、今夜ふたりに見せる写真の用意を始めた。

2.peach in the metro in the sultry evening
 地下鉄の窓に、ちょっと疲れた顔が映る。疲れてはいるけれど、充実した疲労感だ。ヘッドフォンから、さっきまで踊っていた、ビートの利いたミュージカルナンバーが流れてきた。目を伏せると、習ったばかりの振付が、頭の中を8カウントと一緒に巡っていく。いつかこんなナンバーを、大観衆の前で踊って、歌いたい。研究所の発表会、とかでなく、客を呼べる一人のプロのエンターテイナーとして、スポットライトを浴びたい。そんな夢を想像しながら……
 以前は大音量の音楽をかけて部屋で練習し、隣人に怒られたこともあったけれど、今はそれがきっかけで週に1度、彼らの前で成果を披露するようになった。研究所のレッスンでは他の人とつい比べてへこむことも多いけれど、自分の踊るダンスや歌を純粋に「すごーい!」と見てくれる人の存在は、夢を追い続けるために必要な自信を支えてくれているし、ライバル心むき出しの研究所の友達との付き合いにちょっと疲れたこの頃では、すごくありがたいものになってきている。
 よし、今度はこのナンバーをふたりに見せよう。そう決めるとモモは目を開き、ヘッドフォンステレオのボリュームを少し、あげた。

3. pear in the bed of the dark night
 昨日の夜は、ミノルに写真を見せてもらった。ほんの少しの光量の違いで被写体の表情が変わるんだ、と、初めて会ったときと同じ口調で、熱心に話してくれた。四角く切り取られたいろいろな風景~花や動物たち、街のすがた~からちょっとした季節の変化まで感じられる気がして、ちょっと感動した。
 今日はさっきまで、モモが今レッスン中だというミュージカルナンバーを見せてくれた。空間を切り取るような振付とその空間を埋めていくように響く歌声。躍動感に溢れるモモのショーは、本物のスポットライトが狭いアパートで踊る彼女を照らしているような錯覚さえ感じさせるほどだった。
 ふたりには追いかけている夢があって、一日一日を、一瞬一瞬を、すごく大切に、一生懸命に生きている。でも自分はどう?
 昨日は休みだったから、夕方までバイトに行って、そのあとはTV見ながらゴロゴロしてた。今日は大学に行って、役に立つんだか立たないんだか分からない講義を、睡魔におそわれながら受けてきた。
 このままでいいの? このまま毎日が過ぎて行ってしまっていいの?
 考えれば考えるほど不安に押しつぶされそうで、そんな思いから逃れるようにリオは、布団の中でぎゅっと目を閉じた。


to be continued...

(吉本こずえ)
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